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現代日本の社会で「格差」を言う場合、主に[[経済]]的要素、それも税制や社会保障による再分配前の所得格差を指していることが多い。ここでは''経済的要素'' に関する格差社会および格差拡大について詳説する。
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[[1998年]]頃に[[中流]]崩壊が話題となり、格差社会論争が注目されるようになった。主として[[社会的地位]]、[[教育]]、[[経済]]の3分野の格差が議論となっている。[[2006年]]の[[新語・流行語大賞]]の上位にランクインしている。日本社会が平等かつ均質で、[[一億総中流]]と言われていた時期([[高度成長]]期からその後の安定成長期頃まで)においては、[[所得]]面での格差社会が問題になることはなかった(ただし、諸外国と比較すると[[1980年代]]の日本の収入格差は大きかったという指摘がある)。[[バブル景気|バブル]]期には、主に株価や地価の上昇(資産インフレ)を背景として「持てる者」と「持たざる者」との[[資産]]面での格差が拡大し、勤労という個人の努力とは無関係に格差が拡大したとして、当時問題視されることが多かったが、その後のバブル崩壊による資産デフレの進行とともに資産面での格差は縮小した。
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2000年代に格差社会がテーマとして取り上げられている際は、一定の景気回復を前提とした上で、企業利益・賃金の増加のアンバランスないしは、その陰で進行している不具合という視点が取られることが多い(1997年から2007年の間に、企業の経常利益は28兆円から53兆円に増加したが、従業員給与は147兆円から125兆円に減少している)。2010年版『[[労働経済白書]]』では「大企業では利益を配当に振り向ける傾向が強まり、人件費抑制的な賃金・処遇制度改革が強められてきた側面もある。こうした中で、正規雇用者の絞り込みなどを伴う雇用形態の変化や業績・成果主義的な賃金・処遇制度が広がり、賃金・所得の格差拡大傾向が進んできた』と指摘している。[[マスメディア|マスコミ]]や野党などは、当初、単に格差社会を指摘するものであったが、次第に格差の拡大、[[世襲]]化という点を強調する傾向が強まっている。
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格差社会を指摘する場合は、他国との比較において日本の格差社会は顕著なものかどうかという視点が取られることが多いが、格差拡大を指摘する場合は、過去の格差状況との比較が中心的な視点となる。
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[[小泉政権]]期のあいだに一種の[[ブーム]]として種々のメディアを賑わせたこの言葉は、それになぞらえる概念、例として[[恋愛格差]]などの様々な概念の生みの親ともなった。
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ただし、小泉政権以前から存在していた以上の格差が存在するようになったのか、格差が拡大しているのか、については争いがある(例えば、[[小泉内閣]]([[2001年]]〜[[2006年]])において、[[正規雇用]]が190万人減り、[[非正規雇用]]は330万人増えた。そのため、小泉内閣によって非正規雇用者の増加が進んだと言われる事があるが、統計では小泉内閣以前から増加している)。総務省の[[全国消費実態調査]]によると近年、所得格差の拡大傾向が見られる。世帯主の年齢別では50代以下の世帯で格差が拡大している一方、60代以上の世帯では格差が縮小している。
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また、格差の実態を調査するため、様々な主体によって様々な統計が取られている。しかし、格差が存在するか否か、現在どの程度の格差が存在するか、ということはある程度分かりやすいものの、その格差が問題のあるものか否か、階層間の遷移が不能もしくは困難となっているか否か、というような評価については論者によっても異なり、明確なものではない。
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なお、諸外国との比較では、日本の格差は非常に小さいという(『World Economic Outlook Oct.2007』)。
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過去の日本の格差社会については[[#過去の日本の格差社会]]を参照のこと。
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=== 注目の契機 ===
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[[1997年]]を頂点に始まった[[正社員]]削減、サービス業製造業における現業員の非正規雇用への切り替えにより、[[就職難]]にあえぐ若年層の中から登場した、安定した職に就けない[[フリーター]]や、真面目に働きながら[[貧困]]に喘ぐ[[ワーキングプア]]といった存在が注目されるようになったこと、[[ジニ係数]]の拡大や、[[六本木ヒルズ族|ヒルズ族]]など[[セレブリティ|セレブ]]ブームに見られる[[富裕層]]の豪奢な生活振りが盛んに報じられるようになったことなどを契機として、日本における格差社会・格差拡大が主張されるようになった。
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また同時に盛んに報じられるようになった言葉に[[ニート]]がある。これは失業や貧困が増大する社会で、それに苦しむ貧困層や失業者が、自分達よりさらに下の長期的な失業者に不満や憎悪を向けるモラルパニックと言われる現象であり、格差社会の深刻さを示す現象だと言える。
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=== 地域による格差 ===
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[[県民経済計算]]を使用して[[ジニ係数]]を作成すると、県民所得は1990年から2004年にかけてジニ係数は縮小しており、地域間格差の縮小を示している。県内総生産でも1990年から2004年にかけてジニ係数は縮小しており、地域間格差の縮小を示している。
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ただし、地域格差については「[[東京]]はにぎわっているが、地方は停滞している<span style="font-size:90%;">(実際には、東京都の中でもさらに自治体によって格差がある)</span>」「[[名古屋]]は、日本で一番栄えている<span style="font-size:90%;">([[デンソー]]、[[アイシン精機]]など多数の自動車関連工場があるにもかかわらず、[[シャッター通り]]等、地方も真っ青の駅前の寂れっぷりを誇る[[刈谷市]]や、一人当たりの所得は高いはずなのに、床面積当たりの売上が低迷している[[名古屋市]]など、必ずしも好況とは言い難い</span>)」など、実態と乖離したイメージで語られることが非常に多い。
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もともと、[[地方]]によって産業構造、人口分布が異なっていることから、地方によって財政状況に差があるのは当然である。このため、従来から公共事業や補助金によって、再配分が行われてきた。しかし近年、公共事業や補助金は世論の求めや財政赤字の拡大の中で削減されており、これまで国が地方へ回していた予算や[[地方交付税]]が大幅に減らされたため、積み重ねられた地方債などの借金の負担と相まって、財政状況が苦しくなる地方自治体が相次いでいる。
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[[2006年]]には[[北海道]][[夕張市]]が[[財政再建団体]](事実上の自治体の“[[倒産]]”)に転落し、深刻な地方自治体の財政状況が明らかになった。[[自由民主党 (日本)|自民党]]内部には「夕張市の破綻は自己責任」とする主張も根強いが、[[中央集権]]の[[行財政システム]]を背景とする[[中央政府]]の責任転嫁ではないかとの指摘も出されている。なお、その後夕張市以外にも日本各地に複数の“転落予備軍”の自治体が確認されており、「第2の夕張」の懸念がなされている。
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もっとも、[[地方自治体]]については「自治体や住民に経営センスが無く、怠慢・無為無策であることが、地域経済を停滞させている」と[[藻谷浩介]]([[日本政策投資銀行]]地域振興部参事役)は指摘している。
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*刈谷市を例に挙げれば、多数の工場があり、労働者が駅を利用するにもかかわらず、駅前の土地を所有する地主が地価の上昇を当て込んで土地を手放そうとせず、駐車場として運用している結果、駅からは空き地があちこちに散見される状況になっている。
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*[[夕張市]]を例に挙げれば、[[夕張メロン]]という特産品があるにもかかわらず、関連商品の企業を市内に持たなかった(例えば夕張メロンゼリーで有名な株式会社[[ホリ (製菓業)|ホリ]]は[[砂川市]]にある。夕張メロンの生産に必要な道具等も、市内に企業等はないという)。その結果、夕張メロンが売れてもその利益が市や地元に還元されない状況となった。
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=== 産業間・企業規模における格差 ===

2011年4月30日 (土) 10:48時点における版

格差社会(かくさしゃかい)とは、ある基準をもって人間社会の構成員を階層化した際に、階層格差が大きく、階層間の遷移が不能もしくは困難である(つまり社会的地位の変化が困難、社会移動が少なく閉鎖性が強い)状態が存在する社会であり、社会問題の一つとして考えられている。

学問的には、社会学における社会階層研究や、教育社会学における不平等や地位達成研究(進学実績、教育志望、職業志望研究)、経済学における所得資産の再分配研究と関連している。

世界的傾向

国際通貨基金の報告書『World Economic Outlook Oct.2007』(世界経済概要2007年10月版)では、過去20年間の傾向として、ほとんどの国や地域で所得の国内格差が拡大しているという。

主因としては「技術革新」と「金融のグローバル化」を指摘している。一方で、よくいわれる「(貿易自由化といった)経済のグローバル化」については、「格差拡大と有意ではない」として疑問視している。

主要国の状況

国際通貨基金報告『World Economic Outlook Oct.2007』

ある国における最高所得層と最低所得層との比(最高所得層が、最低所得層の何倍いるか)は以下のとおり。ちなみに日本は、報告書の対象としている国の中で、一番低い値となっている。

国名 比率 対象年
ブラジル 23.45 2003
中国 12.20 2004
メキシコ 11.25 2004
アメリカ 8.63 2000
ロシア 7.65 2002
イギリス 6.67 1999
インド 5.51 2003
フランス 4.11 2001
日本 2.28 2004
経済協力開発機構2000年の統計

貧困率(全体の中央値の半分以下の所得を得ている者の割合)及び順位は以下のとおり。日本は、加盟国の中ではアメリカに次いで二位となっている。

順位 国名 貧困率
1位 アメリカ 13.7
2位 日本 13.5
3位 アイルランド 11.9
8位 イギリス 8.7

資料出所:IMF『World Economic Outlook Oct.2007』

総務省の発表によれば、2004年の日本のジニ係数は0.278で、1999年より0.005上昇したとされる(しかし逆に家計調査では1999年より0.018減少している)。これは比較可能なOECD加盟国24か国の中で上から12位に位置し、国際的に中位に位置すると同省は評価している。

経団連の発表によれば、2000年の成人一人当たり純資産のジニ係数は、G7中最も低い0.547であり、日本はG7中最も保有資産の格差が少ない国となっている。

順位 国名 ジニ係数
1位 アメリカ 0.801
2位 フランス 0.730
3位 イギリス 0.697
4位 ドイツ 0.671
5位 カナダ 0.663
6位 イタリア 0.609
7位 日本 0.547
経団連資料:豊かな生活の実現に向けた経済政策のあり方

日本

現代日本の社会で「格差」を言う場合、主に経済的要素、それも税制や社会保障による再分配前の所得格差を指していることが多い。ここでは経済的要素 に関する格差社会および格差拡大について詳説する。

1998年頃に中流崩壊が話題となり、格差社会論争が注目されるようになった。主として社会的地位教育経済の3分野の格差が議論となっている。2006年新語・流行語大賞の上位にランクインしている。日本社会が平等かつ均質で、一億総中流と言われていた時期(高度成長期からその後の安定成長期頃まで)においては、所得面での格差社会が問題になることはなかった(ただし、諸外国と比較すると1980年代の日本の収入格差は大きかったという指摘がある)。バブル期には、主に株価や地価の上昇(資産インフレ)を背景として「持てる者」と「持たざる者」との資産面での格差が拡大し、勤労という個人の努力とは無関係に格差が拡大したとして、当時問題視されることが多かったが、その後のバブル崩壊による資産デフレの進行とともに資産面での格差は縮小した。

2000年代に格差社会がテーマとして取り上げられている際は、一定の景気回復を前提とした上で、企業利益・賃金の増加のアンバランスないしは、その陰で進行している不具合という視点が取られることが多い(1997年から2007年の間に、企業の経常利益は28兆円から53兆円に増加したが、従業員給与は147兆円から125兆円に減少している)。2010年版『労働経済白書』では「大企業では利益を配当に振り向ける傾向が強まり、人件費抑制的な賃金・処遇制度改革が強められてきた側面もある。こうした中で、正規雇用者の絞り込みなどを伴う雇用形態の変化や業績・成果主義的な賃金・処遇制度が広がり、賃金・所得の格差拡大傾向が進んできた』と指摘している。マスコミや野党などは、当初、単に格差社会を指摘するものであったが、次第に格差の拡大、世襲化という点を強調する傾向が強まっている。 格差社会を指摘する場合は、他国との比較において日本の格差社会は顕著なものかどうかという視点が取られることが多いが、格差拡大を指摘する場合は、過去の格差状況との比較が中心的な視点となる。

小泉政権期のあいだに一種のブームとして種々のメディアを賑わせたこの言葉は、それになぞらえる概念、例として恋愛格差などの様々な概念の生みの親ともなった。

ただし、小泉政権以前から存在していた以上の格差が存在するようになったのか、格差が拡大しているのか、については争いがある(例えば、小泉内閣2001年2006年)において、正規雇用が190万人減り、非正規雇用は330万人増えた。そのため、小泉内閣によって非正規雇用者の増加が進んだと言われる事があるが、統計では小泉内閣以前から増加している)。総務省の全国消費実態調査によると近年、所得格差の拡大傾向が見られる。世帯主の年齢別では50代以下の世帯で格差が拡大している一方、60代以上の世帯では格差が縮小している。

また、格差の実態を調査するため、様々な主体によって様々な統計が取られている。しかし、格差が存在するか否か、現在どの程度の格差が存在するか、ということはある程度分かりやすいものの、その格差が問題のあるものか否か、階層間の遷移が不能もしくは困難となっているか否か、というような評価については論者によっても異なり、明確なものではない。

なお、諸外国との比較では、日本の格差は非常に小さいという(『World Economic Outlook Oct.2007』)。

過去の日本の格差社会については#過去の日本の格差社会を参照のこと。

注目の契機

1997年を頂点に始まった正社員削減、サービス業製造業における現業員の非正規雇用への切り替えにより、就職難にあえぐ若年層の中から登場した、安定した職に就けないフリーターや、真面目に働きながら貧困に喘ぐワーキングプアといった存在が注目されるようになったこと、ジニ係数の拡大や、ヒルズ族などセレブブームに見られる富裕層の豪奢な生活振りが盛んに報じられるようになったことなどを契機として、日本における格差社会・格差拡大が主張されるようになった。

また同時に盛んに報じられるようになった言葉にニートがある。これは失業や貧困が増大する社会で、それに苦しむ貧困層や失業者が、自分達よりさらに下の長期的な失業者に不満や憎悪を向けるモラルパニックと言われる現象であり、格差社会の深刻さを示す現象だと言える。

地域による格差

県民経済計算を使用してジニ係数を作成すると、県民所得は1990年から2004年にかけてジニ係数は縮小しており、地域間格差の縮小を示している。県内総生産でも1990年から2004年にかけてジニ係数は縮小しており、地域間格差の縮小を示している。

ただし、地域格差については「東京はにぎわっているが、地方は停滞している(実際には、東京都の中でもさらに自治体によって格差がある)」「名古屋は、日本で一番栄えているデンソーアイシン精機など多数の自動車関連工場があるにもかかわらず、シャッター通り等、地方も真っ青の駅前の寂れっぷりを誇る刈谷市や、一人当たりの所得は高いはずなのに、床面積当たりの売上が低迷している名古屋市など、必ずしも好況とは言い難い)」など、実態と乖離したイメージで語られることが非常に多い。

もともと、地方によって産業構造、人口分布が異なっていることから、地方によって財政状況に差があるのは当然である。このため、従来から公共事業や補助金によって、再配分が行われてきた。しかし近年、公共事業や補助金は世論の求めや財政赤字の拡大の中で削減されており、これまで国が地方へ回していた予算や地方交付税が大幅に減らされたため、積み重ねられた地方債などの借金の負担と相まって、財政状況が苦しくなる地方自治体が相次いでいる。

2006年には北海道夕張市財政再建団体(事実上の自治体の“倒産”)に転落し、深刻な地方自治体の財政状況が明らかになった。自民党内部には「夕張市の破綻は自己責任」とする主張も根強いが、中央集権行財政システムを背景とする中央政府の責任転嫁ではないかとの指摘も出されている。なお、その後夕張市以外にも日本各地に複数の“転落予備軍”の自治体が確認されており、「第2の夕張」の懸念がなされている。

もっとも、地方自治体については「自治体や住民に経営センスが無く、怠慢・無為無策であることが、地域経済を停滞させている」と藻谷浩介日本政策投資銀行地域振興部参事役)は指摘している。

  • 刈谷市を例に挙げれば、多数の工場があり、労働者が駅を利用するにもかかわらず、駅前の土地を所有する地主が地価の上昇を当て込んで土地を手放そうとせず、駐車場として運用している結果、駅からは空き地があちこちに散見される状況になっている。
  • 夕張市を例に挙げれば、夕張メロンという特産品があるにもかかわらず、関連商品の企業を市内に持たなかった(例えば夕張メロンゼリーで有名な株式会社ホリ砂川市にある。夕張メロンの生産に必要な道具等も、市内に企業等はないという)。その結果、夕張メロンが売れてもその利益が市や地元に還元されない状況となった。

産業間・企業規模における格差