強姦罪

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強姦罪(ごうかんざい)とは、暴行又は脅迫を用いるなど、一定の要件のもとで女性の性器に男性が性器を挿入する行為(強姦)を内容とする犯罪類型。刑法177条180条に定められる。性犯罪の中で最も重い犯罪とされている。

強姦罪[編集]

暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫、または、13歳未満の女子を姦淫することを内容とする犯罪である。

主体[編集]

定義上、強姦の被害者は常に女性であるが、加害者は必ずしも男性に限らない。例えば女性が男性と共謀して被害者を押さえつけたり(共同正犯)、女性が別の女性を強姦するよう男性に依頼した場合(教唆犯)などがある。なぜなら、強姦罪は真正身分犯(構成的身分犯)である(最判昭和40年3月30日刑集19巻2号125頁)ので、女子は強姦の実行行為である姦淫を行うことはできない(女子は単独で直接正犯となりえない)が、その一方、刑法65条1項により、男性でなくとも(身分がなくとも)共犯にはなるからである。

客体[編集]

日本では強姦罪の客体は女性に限定されている。男性の性的自由を侵害しても、強姦罪は適用されない。どんな場合であれ強制わいせつ罪が適用される。これは相手の男性が13歳未満であっても同様である。

行為[編集]

暴行・脅迫[編集]

強姦の手段としての暴行又は脅迫の存在が必要である。 判例によれば、強姦罪の暴行・脅迫については「相手方の反抗を著しく困難にする程度のものであれば足りる」として、強盗罪の場合のような、相手方の反抗を不能にする程度までの暴行・脅迫でなくともよいとする(最判昭24年5月10日刑集3巻6号711頁)。現在の判例・解釈の主流は、この判決を基本にしている。

(相手方が13歳未満の女子の場合)

相手方が13歳未満の女子の場合は、脅迫・暴行がなく、または同意があったとしても強姦罪を構成する(刑法177条後段)。判断能力の未熟な青少年を法的に保護する趣旨である[1]。 ただし、相手が13歳以上だと思い込み、または18歳以上だと虚偽の申告をされ、同意の上で性交した場合は、強姦罪の構成要件にあたる事実の認識がないため、故意が認められず本罪は成立しない。法定強姦の項目も参照。

姦淫[編集]

姦淫とは性交をいい、男性器の女性器に対する一部挿入で既遂に達し、妊娠および射精の有無は問わない(大審院大正2年11月19日判決以後の確定した判例・実務)。この定義によれば、女性による強姦、男性への強姦には、たとえ性器の著しい損傷があったとしても強姦罪は適用されない(先述)。同様に、男性による淫具を用いた性暴力も強姦罪では処罰されない。また、アナルセックスは、被害者が女性であっても強姦罪の適用範囲外である。これらの場合は、暴行罪か強制わいせつ罪で処罰されることになる。

準強姦罪[編集]

暴行・脅迫によらない場合も、女性の心神喪失・抗拒不能に乗じ、又は女性を心神喪失・抗拒不能にさせて姦淫した場合は、準強姦罪が成立する(刑法178条2項)。

心神喪失とは、精神的な障害によって正常な判断力を失った状態をいい、抗拒不能とは、心理的・物理的に抵抗ができない状態をいう。睡眠・飲酒酩酊のほか、著しい精神障害や、知的障害にある女性に対して姦淫を行うことも準強姦罪に該当する(福岡高判昭和41年8月31日高集19・5・575)。医師が、性的知識のない少女に対し、薬を入れるのだと誤信させて姦淫に及ぶのも準強姦罪となる(大審院大正15年6月25日判決刑集5巻285頁)。

なお、犯人が暴行や脅迫を用いて被害女性を気絶(心神喪失)させ、姦淫に及んだ場合は、準強姦罪ではなく強姦罪となる。ただし、「準強姦罪」と「強姦罪」は共に同一の法定刑となっているため、区分にあまり大きな意味はない。

集団強姦罪[編集]

2人以上の者が共同して強姦(準強姦含む)した場合、集団強姦罪として法定刑が加重される。

強姦致死傷罪[編集]

結果的加重犯[編集]

強姦罪を犯し、それによって被害者を死亡・負傷させた場合は、強姦致死傷罪(刑法181条2項)が成立し、無期又は5年以上の懲役に処せられる。 強姦は未遂でも、同様に強姦致死傷罪が成立する。

処女を強姦し、処女膜を破裂させた場合は強姦致傷罪に当たる(最決昭和34年10月28日刑集13巻11号3051項)。また、姦淫行為自体や、強姦の手段である暴行・脅迫によって傷つけられた場合のほか、強姦されそうになった女性が逃走を図り、その途中で体力不足などのために倒れたり、足を踏み外して怪我をした場合などもこの強姦致傷罪が成立するとされている(最決昭和46年9月22日刑集25巻6号769頁等)。結果的加重犯の項目も参照のこと。

なお、強姦致傷罪には同時傷害の特例の適用はないとした下級審の判決がある(仙台高判昭和33年3月13日高刑11巻4号137頁)。

殺意がある場合[編集]

殺意をもって女子を強姦し、死亡させた場合、どの条文が適用されるかについて争いがある。まず、181条2項に殺意がある場合を含むと考えるか否かに分かれる。

181条2項は結果的加重犯である点を重視し、殺意がある場合を含まないという説は更に、強姦致死罪と殺人罪観念的競合となるという説と、強姦罪と殺人罪の観念的競合となるという説に分かれる。判例は前者の説をとっている(大判大正4年12月11日刑録21輯2088頁、最判昭和31年10月25日刑集10巻10号1455頁)。判例に対しては、死の結果を二重評価することになるとの批判があり、結局殺人罪で処断されて刑の不均衡を生じないのであるため、後説によるべきとの指摘がある。

一方、181条2項には殺意がある場合を含むという説は更に、強姦致死罪の単純一罪であるという説と、刑のバランスを考えて、強姦致死罪と殺人罪の観念的競合となるという説に分かれる。

未遂等・強盗強姦罪[編集]

姦淫行為の開始、あるいはその手段としての暴行・脅迫が開始した時点で強姦罪の実行の着手があったといえ、姦淫が既遂とならなくても、強姦未遂罪(刑法177条、179条)が成立し、既遂と同一の法定刑で処罰される。

また、強姦の故意が認められない場合や、男子に対する姦淫でも、強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪(刑法176条・178条1項)が成立し得る。

強盗犯人が口封じなどの目的で強姦に及ぶケースもあることから、別途強盗強姦罪(刑法241条)が定められている。

親告罪[編集]

強姦罪は、親告罪であるから、被害者(又はその法定代理人等)の告訴がなければ公訴を提起することができない(刑法180条1項)。これらの犯罪の追及はかえって被害者の不利益になることもあるため、訴追するか否かを被害者の意思によることとしたものである。なお、強姦罪は犯人と被害者の間の一定の関係は問わないため、絶対的親告罪に該当する。

2人以上の者の集団により、現場で共同して強姦・準強姦を行った場合は、2004年(平成16年)の刑法改正で集団強姦罪・集団準強姦が成立することとなり、罰則が強化されたが(刑法178条の2)、この場合は告訴がなくても処罰の対象となる(改正前刑法180条2項。因みに罰則強化以前も、2人以上の者が強姦した場合は親告罪の対象から外されていた)。強姦致死罪、強姦致傷罪も非親告罪であるため、告訴の有無に拘らず公訴を提起することができる。

2000年(平成12年)法律第74号の改正により、強姦罪等については6か月の告訴期間が廃止された(刑事訴訟法235条1項)。

法定刑[編集]

なお、記載中の「〜年以上」は、刑法12条1項により原則として「〜年以上20年以下」を意味し、再犯や併合罪により刑が加重される場合には刑法14条2項により「〜年以上30年以下」となる。未遂の場合も既遂と同一の法定刑が適用される。

強姦罪・準強姦罪
3年以上の有期懲役(刑法177条、178条2項)
集団強姦罪・集団準強姦罪
4年以上の有期懲役(刑法178条の2)
強姦致死傷罪・準強姦致死傷罪
無期又は5年以上の有期懲役(刑法181条2項)
集団強姦致死傷罪・準強姦致死傷罪
無期又は6年以上の有期懲役(刑法181条3項)
強盗強姦罪
無期又は7年以上の有期懲役(刑法241条前段)
強盗強姦致死罪
死刑又は無期懲役(刑法241条後段)

罪数に関する判例[編集]

  • 強盗犯人が女子を強姦し、よって負傷させた場合、強盗強姦罪単純一罪である(大判昭和8年6月29日刑集12巻1269頁)。
  • 強姦犯人が強姦後に強盗の故意を生じて金品を強取した場合、強姦罪と強盗罪併合罪となる(最判昭和24年12月24日刑集3巻12号2114頁)。
  • 強盗犯人が女子を強姦し、故意に殺害したときは、強盗殺人罪強盗強姦罪観念的競合となるとしている(大判大正10年5月13日刑集14巻514頁)が、争いがある。詳しくは強盗強姦罪を参照。

裁判実務[編集]

判例によれば、強姦罪の暴行・脅迫については「相手方の抗拒を著しく困難ならしめる程度のものであれば足りる」として、強盗罪にいう暴行・脅迫のような「相手方の抗拒を不能ならしめる程度」までの強度でなくともよいとする(最判昭24年5月10日刑集3巻6号711頁)。現在の判例・解釈の主流は、この判決を基本にしたものがほとんどとなっている。

裁判実務における問題点[編集]

  • 被疑者・被告人となった男性が合意(いわゆる和姦)であったと主張する場合、被害者および検察側が暴行・脅迫の事実や、被害者が抵抗した事実の立証を強いられる困難に関する論議は尽きていない。
  • 性行為に至る経緯を詳細に調査しないと、合意の有無を判断することは難しい。また、性行為が行われる状況では、通常、目撃者が少ないといった問題もある。

近時の改正の動きと立法論[編集]

2004年改正まで[編集]

法曹界への女性進出が著しくなった近年、たとえば女性検事から、法定刑の低さが強姦の処罰の足を引っぱっているという意見が出されたりするなど、強姦罪の法定刑(2004年改正前は2年以上の有期懲役等)には批判が強く、同じ刑法の規定で、強盗罪(5年以上の有期懲役)などと比較して著しく低いことが指摘されていた。

政府・与党のプロジェクトチームは2003年9月25日に会合を開き、

  1. 強姦罪の法定刑を「2年以上の懲役」から「3年以上の懲役」に引き上げる(2年と3年の差は、執行猶予との関係で意味を持つことを期待してのものであり、3年を超過すれば執行猶予がなくなる[2]点で大きな差が生まれる。刑法25条参照。)
  2. 集団強姦罪を新設し、4年以上の懲役とする

などを盛り込んだ改正案の検討に着手した。これは、自民党の元総務庁長官太田誠一が、与党3党の女性議員らに呼びかけて立ち上げたもの。同9月30日の参議院本会議において当時の内閣総理大臣小泉純一郎は、強姦罪の罰則強化と集団強姦罪の創設について理解を示しながらも、具体的方策については触れなかった。その後、2004年(平成16年)12月の刑法改正で法定刑が引き上げられ、集団強姦等(第178条の2)の規定が設けられた。

夫婦間、DVとの関連[編集]

夫婦間における強姦について「婚姻が破綻して夫婦たる実質を失い、名ばかりの夫婦にすぎない場合にはもとより夫婦間に所論の関係(いわゆる通常の夫婦関係での性交)はなく、夫が暴行又は脅迫をもって妻を姦淫したときは強姦罪が成立する」と認定した1986年の鳥取地裁判決(鳥取地決昭61.12.17)がある。

現行法の問題点[編集]

現行の強姦罪に関する確定した判例実務では、男性器が女性器に挿入されたことをもって強姦罪の既遂とする。そのため当初から肛門に男性器を挿入することを意図した場合や、被害者が男性の場合には強姦罪は適用されず、一般により犯情が軽いとされる強制わいせつ罪にとどまる(前段につき、東京地判平成4年2月17日参照)。

関連事件
2003年7月29日、多摩地区を中心に15件の婦女暴行を繰り返した36歳(当時)の男性が、警視庁捜査一課により逮捕された。女性の肛門に男性器を挿入する手口で犯行に及んだため、強制わいせつ致傷の罪に問われたものの、強姦罪は適用されなかった。加害者は強姦罪になるのを免れるため肛門を狙ったと供述している。

国際的観点からの問題点[編集]

日本は、国連の自由権規約委員会の2008年11月の最終見解のパラグラフ14で、刑法第177条の強姦罪の定義に男性に対するレイプも含めることを求められるとともに、強姦罪を重大な犯罪として被疑者側の立証責任を回避させるよう求められた。

強姦率の実態では、日本は発生率が少ない国になっている。しかしながら、これには日本人特有の性犯罪に対しての思想が大きく影響している、という指摘が少なくない。長年にわたって、日本の強姦の立件数及び摘発数が少ないのは、被害者・加害者のいずれに於いてもこのような強姦に対しての日本人特有の思考が最も大きな妨げになっているからである、と批判されている。また、国際的に日本は強姦に対しての刑事罰が非常に軽い国である、という批判も受けている。「強姦の歴史」の項も参照。

脚注[編集]

  1. 西田典之『刑法各論』第三版81頁
  2. 3年ちょうどで、初犯の場合だと執行猶予5年を言い渡すこともある。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

テンプレート:日本の刑法犯罪